Left-facing arrow icon in white color, commonly used for navigation or forward actions.
ESGインサイト

炭素強度とは何か?

本記事では、炭素強度の基本的な考え方、業界ごとの活用例、自社での測定・削減に役立つ実践的なアプローチについて、わかりやすく解説します。

anna panayi headshot
Ben Richardson
Co-Founder & Chief Sustainability Officer
炭素強度とは何か?

ある競合企業2社が、ともに二酸化炭素排出量を10%削減したと報告しました。一見すると同じ成果のように見えますが、A社は生産を15%縮小して達成したのに対し、B社は5%の成長を遂げながら削減を実現しています。このように、同じ「削減」でも、その中身はまったく異なるのです。

この事例は、炭素強度(カーボンインテンシティ)の重要性を浮き彫りにしています。炭素強度は、組織が本当に効率を高めているのか、それとも単に規模を縮小して排出を減らしているだけなのかを見極めるための、重要でありながら見落とされがちな指標です。つまり、真の革新と、誤解を招く統計との違いを明らかにするものなのです。

本記事では、炭素強度の基本的な考え方、業界ごとの活用例、自社での測定・削減に役立つ実践的なアプローチについて、わかりやすく解説します。

炭素強度を理解する

炭素強度とは、活動量、生産量、または製品1単位あたりに排出されるCO₂e(二酸化炭素換算量)を示す指標です。総排出量の削減が注目されがちですが、炭素強度は事業規模にかかわらず、どれだけ効率的に運営できているかを示します。この指標を活用すれば、あらゆる規模・業種の企業同士を公平に比較することができ、どの企業がより効率的に脱炭素化を進めているかが明らかになります。

近年では、環境パフォーマンスをより包括的に把握するため、絶対排出量とあわせて炭素強度を追跡する企業が増えています。たとえば、事業成長に伴い総排出量が増加したとしても、炭素強度が下がっていれば、むしろ効率は向上していると言えます。反対に、事業を縮小して排出量を減らしても、炭素強度が上がっていれば、効率は悪化していることになります。

炭素強度と絶対排出量の関係は、次の数式で表せます:

炭素強度 = 総排出量 ÷ 活動量

言い換えると:総排出量 = 炭素強度 × 活動量

この関係が示すとおり、炭素強度を下げても活動量が増えれば、総排出量が増加することもあり得ます。たとえば、炭素強度を10%改善しても、生産量が15%増えれば、総排出量はおおよそ3.5%増加する計算です。だからこそ、気候変動対策に本気で取り組む企業には、炭素強度と絶対排出量の両方を目標に掲げることが求められます。

セクター別の炭素強度

炭素強度の測定方法は、業界ごとの事業内容やアウトプットによって異なります。たとえば、ヨークシャーのビール工場が、ガスボイラーから再生可能エネルギーを利用する電気ボイラーに切り替えると、一晩で炭素強度を半減できる可能性があります。一方、ロンドンのレストランチェーンでは、食品廃棄物の削減や冷蔵設備の最適化といった効率改善の取り組みを何年も続けた結果、ようやく目に見える強度削減を達成することもあります。

エネルギー業界

発電における炭素強度は、通常1キロワット時あたりのCO₂e排出量(gCO₂e/kWh)で示されます。英国の送電網の炭素強度は、石炭から再生可能エネルギーへの移行を背景に、2013年の約450gCO₂e/kWhから2023年には約160gCO₂e/kWhまで大きく低下しました。

電源別の炭素強度は次の通りです:

  • 石炭:約820gCO₂e/kWh
  • 天然ガス:約490gCO₂e/kWh
  • 太陽光発電:約48gCO₂e/kWh
  • 風力:約11gCO₂e/kWh
  • 原子力:約12gCO₂e/kWh

こうした数値は、再生可能エネルギーへの転換による大幅な削減効果を端的に示しています。

食品・飲料製造業

この業界では、製品1トンあたりまたは売上100万ポンドあたりのCO₂e排出量(tCO₂e)で炭素強度を表します。英国における代表的なベンチマークは以下の通りです:

  • 乳製品加工:1.8~2.5 tCO₂e/トン
  • 食肉加工:2.0~4.5 tCO₂e/トン
  • 醸造:0.2~0.3 tCO₂e/ヘクトリットル
  • ソフトドリンク製造:0.1~0.2 tCO₂e/キロリットル

これらのばらつきは、使用エネルギー量、原材料の種類、製造工程の効率の違いによるものです。たとえば、酪農や畜産を起点とする食品では、上流での排出が大きいため強度が高くなる傾向があります。

サービス・輸送業

サービス業では、売上高(100万ポンド単位)や従業員数に対するCO₂e排出量で炭素強度を評価するのが一般的です。たとえば、専門サービス業では20~30 tCO₂e/100万ポンド、リテールバンキングでは15~25 tCO₂e/100万ポンド程度が一つの目安となります。

輸送業では、旅客キロまたは貨物トンキロあたりのgCO₂eで測定されます。英国国内の例としては、

  • 国内航空便:約273 gCO₂e/旅客キロ
  • 電気鉄道:約30〜35 gCO₂e/旅客キロ

炭素強度が重要な理由

炭素強度は、企業の規模に依存せずに環境効率を評価できるため、公平な比較が可能です。たとえば、年間1万バレルを生産する地元のクラフトブルワリーは、絶対排出量こそ大手に及ばないものの、原材料の地産地消や設備の効率化によって、1バレルあたりの炭素強度では優れた数値を達成できるかもしれません。

また、炭素強度は成長と両立可能な指標です。英国気候変動委員会(CCC)も、多くの業界が成長を続けながら脱炭素を進める必要性を強調しています。

現在では、規制面でも炭素強度指標の活用が進んでいます。たとえば英国のSECR(エネルギー・炭素報告制度)では、対象企業に対し、絶対排出量とともに少なくとも1つの炭素強度指標の開示を義務付けています。また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、比較可能性を高めるために炭素強度の活用を推奨しています。

投資家も、効率性やカーボンプライシングリスクを把握する指標として炭素強度を活用しています。ISO 14064などの国際規格では、事業活動に対する排出量を追跡する手段として炭素強度の利用が推奨されています。

さらに、炭素強度は企業内部の改善にも役立ちます。どの工程や製品が多くの排出につながっているのかを把握することで、改善余地のある部分を特定できます。

炭素強度の計算

炭素強度を把握するための第一歩は、適切な活動量指標(アクティビティメトリクス)を定めることです。
良い指標には以下の特徴があります:

  • 排出量と直接的に関連していること
  • 事業活動と比例関係にあること
  • 測定が容易であること
  • ステークホルダーにとって理解しやすいこと


業種によって適切な指標は異なりますが、食品・飲料業界では以下のような例が挙げられます:

  • 製造業:製品トン数または生産ユニット数
  • サービス業:売上高またはFTE(常勤換算)従業員数
  • 不動産:延床面積(m²)
  • 輸送業:旅客キロまたは貨物トンキロ

この指標に基づいて、Scope 1~3すべてをカバーする排出量データを収集し、一貫性のある報告方法と組織境界を設定することが求められます。

よくある落とし穴には以下のようなものがあります:

  • 排出量と活動量の範囲(バウンダリー)が一貫していない
  • 前年比での事業規模の大きな変化を考慮しない
  • 排出量と相関のない、または複雑すぎる指標を選ぶ
  • Scope 3排出量の含め方が報告期間ごとに異なる

指標に使う分母(活動量)を正しく選ぶことが重要です。例えば:

  • 売上高ベース(tCO₂e/£m):業界内での比較に適する
  • 物量ベース(tCO₂e/製品トン):製造効率を示す
  • 従業員ベース(tCO₂e/FTE):サービス業で有効
  • 生産時間ベース(kgCO₂e/生産時間):製造ラインの効率を可視化

炭素強度目標の設定

効果的な炭素強度の削減目標を設定するには、業種固有の事情に配慮しつつ、気候科学に基づいたアプローチが欠かせません。Science Based Targets initiative(SBTi)は、1.5℃目標と整合したセクター別の削減経路を提示しています。

バランスのとれた目標設定の考え方

  • 短期(1~3年):即効性のある効率改善に集中
  • 中期(5~7年):構造的な改革を導入
  • 長期(10年以上):ネットゼロ目標との整合を図る

目標をステークホルダーに伝える際は、それが絶対排出量の削減や全体の気候戦略とどう関係しているかを説明することが大切です。たとえばテスコは、炭素強度目標をゼロカーボン目標と連動させることで、効率向上と長期ビジョンとのつながりを示しています。

適切な目標設定には、「野心」と「実現可能性」のバランスも必要です。食品・飲料業界では、農業由来の排出(Scope 3)が多く、削減戦略の設計には特に慎重な検討が求められます。

科学的アプローチの活用

食品セクターは、農業由来の排出が多いため、脱炭素化において特有の課題を抱えています。SBTiのようなイニシアチブが提供するセクター別ガイダンスは、信頼性の高い目標を設定するための重要な枠組みとなります。なかでもSBTiの「セクター別脱炭素化アプローチ(SDA)」は、パリ協定の目標に沿った炭素強度の削減シナリオを提示し、企業がどのような削減経路をたどるべきかを明確に示してくれます。

強度目標と絶対目標の併用

急成長中の企業では、炭素強度が改善されても、活動量の増加により総排出量が増える可能性があります。逆に、縮小傾向にある企業では、絶対排出量が下がっても強度が悪化するケースもあります。

したがって、両者を併用するのがベストです:

  • 強度目標:業務効率やプロセス改善を促す
  • 絶対目標:総排出量の抑制に効果的

炭素強度削減の戦略

エネルギー効率の改善

英国の気候変動法のもと、LED照明の導入(照明エネルギーを50~70%削減)、スマートビル管理システム、空調最適化などを通じ、企業のエネルギー効率は大幅に向上しています。ユニリーバは2008年~2020年に製造業の炭素強度を65%削減しました。

再生可能エネルギーの導入

電力購入契約(PPA)やオンサイトの太陽光発電を導入することで、特にエネルギー集約型の産業では大きな強度削減が見込めます。飲料メーカーのBeluは2010年以降、再エネ活用と業務改善により炭素強度を72%削減しました。

プロセス最適化

リーン生産手法(バリューストリームマッピングなど)を活用して排出の多い工程を特定し、機械のアイドルタイム短縮によってエネルギー使用量を10〜15%削減できます。

サプライチェーンとの連携

Scope 3の排出量は、企業全体のカーボンフットプリントの70%以上を占めることが一般的です。BTのような企業は、サプライヤーに対しても積極的に関与し、科学的根拠に基づく削減目標の設定を促すことで、バリューチェーン全体での排出削減を加速させています。こうした取り組みにより、BTは多くの取引先に対して炭素強度の削減に取り組むよう働きかけてきました。

進捗の追跡

正確な進捗追跡の出発点は、基準年の設定です。買収・売却などの事業変更がある場合は、GHGプロトコルに基づきベースラインの再算出などを検討する必要があります。

外部検証は信頼性を高めます。ISAE 3410は、温室効果ガス報告(炭素強度を含む)に特化した保証の国際基準です。投資家の信頼獲得に有効です。

また、視覚化による共有も効果的です。絶対排出量と炭素強度の推移を並べて示すことで、効率改善と全体影響の関係性が伝わりやすくなります。

まとめ:炭素強度がもたらす価値

炭素強度は、企業の成長や事業構造の違いを超えて効率性を評価できる指標です。絶対排出量だけでは見えにくい改善の兆しを明らかにし、公平な比較を可能にします。

炭素強度を下げることは、環境だけでなくビジネスにとっても好影響をもたらします:

  • エネルギー効率向上によるコスト削減
  • カーボンプライシングリスクの低減
  • 競争力ある立ち位置の確保
  • エネルギー価格変動に対する強靭性

MSCIの調査では、2015年〜2023年3月にかけて、高排出産業においても再エネや効率改善に注力した企業ほど収益成長が早かったという結果が出ています。

次のステップ

  • Scopeごとのカーボンフットプリントを算定
  • 自社の事業に合った活動量指標を特定
  • 現在の炭素強度を把握し、業界ベンチマークと比較
  • 目標を盛り込んだ削減ロードマップを策定
  • 定期的なモニタリング体制を構築

効率化と絶対排出削減の両立によって、環境・経済の両面に貢献する持続可能な成長の道筋が見えてきます。第一歩は「測定」から始まり、それはやがて「イノベーションと変革」につながります。

Zeveroでは、企業の炭素強度測定、目標設定、削減戦略の策定・実行をサポートしています。私たちと一緒に、持続可能な未来に向けた一歩を踏み出しませんか?

Zeveroがどのように報告作業を効率化できるか、ご紹介します。

ビジネスの成長を図り、同時に、環境への影響を最小限に抑えましょう
Zevero dashboard image.